介護の現場では人手不足が深刻化している
未曾有の高齢化社会に突入した日本。高齢者の暮らしを保障する介護の現場では、増え続ける要介護高齢者に介護職員の数が追い付かず、人手不足が課題となっています。ここでは、人手不足の原因や現行の対策について説明します。
なぜ人手不足に陥っているのか
介護業界では、高齢化の進展によって、今後ますます需要の増加が予想される一方、介護職員の供給が追い付いていません。その主な原因には、次のようなものがあります。
・平均給与が他業種と比べて低い
全産業の月額平均給与は約32万円です。それに対して、介護分野の月額平均は約24万円と、他産業よりも月々8万円も低い給与水準となっています。
理由の1つが、多くの介護現場が非正規職員の労働力に大きく依存していることです。とくに訪問介護では、全職員数47万人のうち、じつに33万人もの人が非正規で働いています。
・ネガティブなイメージ
多くの人が介護の仕事にネガティブなイメージを抱いていることも、介護人材の採用を困難にしています。実際、内閣府の調査からは「夜勤があり仕事がきつい」「給与が低い」「将来が不安」といったマイナスなイメージを持つ人が少なくない実態が垣間見えます。
(参照:厚生労働省「介護人材の確保について(平成27年)」)
人手不足解消のために講じられている対策
介護業界では長年、慢性的な人手不足を解消しようとさまざまな取り組みが行われてきました。
介護職員の働きやすい労働環境作りの1つが、ユニットケアです。利用者10名前後が同じ居住空間で共同生活をおくるケアの方式は、スタッフもいつも同じ利用者のケアに当たるため、利用者を熟知しやすく効率的に適切なケアを提供することができます。
一方、利用者にとっては、いつも同じ顔ぶれのメンバーやスタッフに囲まれて過ごすため、安心感に繋がります。
また、多くの介護現場では、業務効率化の観点からIT化が進められてきました。IT化の目的は、ケア以外の業務を効率化することです。ペーパーレス化によって、介護日報や利用者の食事・バイタル記録などの作成が素早く行えるようになります。
介護業界の人手不足を解消する動きは、行政でも活発です。
2019年10月の介護報酬改定で、消費税増税分を財源に充てた加算が新設されることが決まりました。加算の分配によって、事業所内に「給与支給額に月額8万円追加」もしくは「年収440万円以上」となる職員を確保するよう求められています。
さらに、2019年4月より新たな外国人労働者の在留資格が設けられ、介護分野の労働者確保の道が拓けました。これまでの技能実習生制度やEPAに加えて、特定技能制度による外国人労働者の受け入れが認められたのです。
外国人人材を介護の仕事で受け入れる方法
介護職員の不足に悩まされる介護業界では、外国人労働者が貴重な労働力として期待されています。
以下では、介護分野で外国人を受け入れるための4つのルートを紹介します。
技能実習生として受け入れる
外国人人材の受け入れとして、最も活発に利用されてきた制度が技能実習制度です。技能実習とは、外国人の日本在留資格の一つ。
「安価な労働力確保の制度」と、指摘する人もいますが、本来の目的は日本企業が発展途上国の若者を受け入れて技能を学ばせ、母国の経済発展に役立ててもらうことです。
介護分野で受け入れ可能な技能実習生は、一定以上の日本語能力と、母国における介護経験または介護・看護の資格があると認められた人に限られます。さらに、日本入国後、日本語や日本での生活についての講習を受けます。
技能実習生の在留期間は最長5年です。それ以上の滞在は原則的に認められていません。
労働者として受け入れる
残りの3つは、始めから労働者として外国人を受け入れるルートです。
・EPA
日本が個別に外国と結ぶEPA(経済連携協定)により、外国人介護福祉士・看護師の候補生を受け入れることが可能です。EPAの対象国は、インドネシア・フィリピン・ベトナムの3カ国のみ。
候補生は、介護福祉士の資格取得が受け入れの前提となります。日本への滞在期間は最長で4年です。候補生は、その期間中に働きながら資格取得を目指します。
資格取得後は、滞在資格を無期限に更新可能に。そのため、介護福祉士保有者は実質的に定年まで働けようになります。
・在留資格「介護」
2017年から、外国人の在留資格に「介護福祉士」が加わりました。資格取得には日本で2年以上介護福祉養成施設に通うこと、および国家試験合格が必要であるため、留学生やEPAで来日した人が資格取得を目指します。
・特定技能1号
2019年4月より新設された在留資格です。人手不足が深刻である特定の業種のみ、外国人労働者の受け入れが認められており、介護業界も該当します。在留期間は最長で5年。
特定技能1号外国人には、技能試験と日本語試験の合格者、または技能実習生からの資格切り替えが見込まれています。
特定技能1号としての受け入れ体制が整う
急ピッチで進められた特定技能在留資格の整備。介護業界では早くも受け入れ体制が整いつつあります。
「介護」で特定技能1号の在留資格を取得するには
2019年新たに施行された在留資格「特定技能1号」。人材不足に頭を抱える改行業界でも、若くて優秀な外国人労働者を期待する声があります。
特定技能で来日する外国人は、介護の基礎的な技能を測る「介護技能評価試験」と、一定水準の日本語能力を測る「日本語試験」に合格した人々です。
2019年5月24日の厚生労働省の発表によると、すでに84名のフィリピン人が「介護技能評価試験」に合格しています。このうち、日本語試験をパスした人が、2019年の夏ごろより日本で働き始める予定です。
さらに、政府は、ベトナムとの間で介護人材受け入れの拡大について合意。2020年の夏までに、1万人の受け入れを目標にしています。
介護人材を特定技能1号として受け入れる際の問題点
以上のように、介護分野においては、多くの外国人労働者の受け入れ準備が着々と進んでおり、順次日本で働き始める予定です。しかし、特定技能1号在留資格には「在留期間が5年しかない」という注意点もあります。
特定技能には在留期間に制限のない「特定技能2号」がありますが、2019年6月現在、介護分野では取得できません。
そこで、特定技能で来日した外国人労働者に自社で働き続けてもらいたい場合、5年の期限が過ぎるまでに在留資格を「介護」に変更する必要があります。そのためには、実務経験を積ませて、介護福祉士の国家資格を取得してもらわなければなりません。
優秀な人材の獲得には受け入れだけでなく、資格取得をバックアップし「育てる」意識が必要なのです。
まとめ
人手不足が深刻な介護業界では、外国人労働者の活躍が期待されています。外国人を受け入れるルートは、技能実習生、EPA、在留資格「介護」、特定技能1号の4つです。
最も新しい在留資格・特定技能1号では、多くの外国人労働者の受け入れが期待されています。
しかし、滞在期間には限りがあるため、企業には、外国人の将来の活躍を見越して、介護福祉士の取得と在留資格の切り替えをバックアップすることが求められています。