特定技能外国人を受け入れるために必要な事前ガイダンスとは

新卒採用や中途採用で一度に大人数の人材が入社する場合と同様に、特定技能外国人の受け入れを行う予定の企業も、事前ガイダンスの実施が欠かせません。 諸条件のすり合わせは面接段階で多少できているとはいえ、入国前・入社前の外国人は環境の変化や新しい職場へ多大な不安を抱いています。少しでも不安を払拭できるよう、またトラブル発生のリスクを抑えられるよう、正しい事前ガイダンスを行い、サポートしましょう。 ここでは特定技能外国人の受け入れ時に義務付けられている、事前ガイダンスについて解説します。

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特定技能を受け入れるには事前ガイダンスが必要

事前ガイダンスとは、1号特定技能外国人の受け入れ企業が行わなくてはならない支援のひとつです。特定技能外国人は1号と2号に分けられますが、全員が最初に1号の在留資格を取得する仕組みのため、実質的に全員への支援となっています。働きながら生活するうえで留意しなくてはならない事項について、定められた方法によって情報提供を行います。

特定技能外国人を受け入れる企業はさまざまな支援が求められており、大きく分けると「義務的支援」と「任意的支援」の2種類です。事前ガイダンスの大半は義務的支援にあたる内容であり、いずれの企業も行わなくてはなりません。

タイミングも限定されており、特定技能雇用契約が締結されてから、特定技能外国人の在留資格認定証明書の交付申請を行う前までに実施します。すでに日本在留している外国人が在留資格の変更を行う場合は、変更の申請前までが実施期限です。

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事前ガイダンスの内容

事前ガイダンスに盛り込むことが義務付けられているのは、労働条件や活動内容など大きく分けて9つの項目です。企業によっては、任意的支援として自国から持参しておくと良いものや、日本入国時の服装の目安なども追加説明することがあります。

9つの項目についての詳細は、次のとおりです。

労働条件

第一にあげられるのが、労働条件に関する説明です。日本の企業で働くうえで、あらかじめ相互同意を得ておくべき以下の事項を中心に、労働条件全般を共有します。

・業務内容
・報酬額
・その他の労働条件

どのような業務に従事するのか、労働時間や休憩時間、休日や報酬額はどのような条件となっているのか、実際の雇用契約書・条件書の内容に基づいて説明します。

国ごとに労働条件に関する認識が大きく異なるため、特に使用期間や見込み残業、夜勤の有無やシステムなど日本ならではの習慣は漏れなく伝えましょう。ある程度の経験を積んでから手当の支給を検討している場合は、手当の有無のみだけではなく条件も正確に理解してもらえるまで説明する必要があります。

活動内容

外国人は、取得した在留資格ごとに定められた範囲内での活動のみが認められています。法的に特定技能外国人ができること・できないこと(業務区分)があることをあらかじめ伝えておかなくてはなりません。

パスポートに貼付される指定書の確認とあわせて、入管法の在留資格「特定技能」で定められた範囲内での活動のみが許されることを詳細に説明しましょう。

入国手続き

企業と個人の間で労働契約を締結するのみでは、日本への在留は認められません。日本へ入国する場合はビザの申請を含めた入国手続きについて説明する必要があります。

ビザ申請の手順に加え、在留資格認定証明書を交付された後は3か月以内に入国しなくてはならないことも伝えるべきです。

すでに日本に在留している外国人を雇い入れる場合の入国手続きは不要ですが、在留カードを入国管理局で受け取る必要があることを説明します。たとえば留学生が特定技能外国人として引き続き日本に留まり就労する場合などは、在留資格変更許可申請が必要です。

特定技能外国人へ在留資格を変更するときは、就業時期も新たな在留資格の取得後となることもあわせて説明します。

保証金についての注意

保証金についての条件も、特定技能外国人に関しては明確にルールが定められています。仮に早期離職する事態となった場合、受け入れ企業や送り出し機関(仲介会社)などが保証金からお金を受け取ったり、違約金を請求したりしてはならないという内容です。

もちろん、特定技能外国人本人だけではなく、家族や親類縁者などの関係者が肩代わりすることもないことを、明確に伝えておきましょう。

過去に技能実習制度で保証金や違約金と称して金銭を要求する事態があったため、特定技能ではこのようなトラブルを避けるために明確なルールが定められています。

支援費用は負担する必要がないこと

特定技能外国人に対する支援で生じる費用は、本人や関係者に負担を強いることはできません。仮に事前ガイダンスやその他支援を外部委託する場合であっても、費用のすべてを受け入れ企業が負担し、特定技能外国人に請求されることはない旨を説明しましょう。

職務上に加え、生活上必要となる支援についても、義務的支援に該当するものであれば直接的・間接的の違いに限らず、特定技能外国人が負担することはありません。事前ガイダンスでは、改めて本人へ支払い義務が生じないことを伝えるべきです。

送り出し機関に支払う費用

特定技能外国人が現地の送り出し機関を利用するとき、一定の費用が生じていることがあります。送り出し機関は国が認めたライセンスのもと、企業によって運営されるものであるため、手続きの費用が生じること自体は一般的です。

ただし、中にはルールを逸脱する高額な費用を請求していたり、別のブローカーが介在していたりと余計な費用を支払わされているケースもあります。

このようなトラブルに巻き込まれていないか、事前ガイダンスでは送り出し機関のライセンスの内訳について確認するよう促しましょう。費用の上限が国から定められているところが多いため、各国の上限を超えていないかどうかも確認ポイントです。

住居の確保

外国と日本では、住居確保のための手順やルールも大きく異なります。さらに外国人の場合は契約内容に関する難しい日本語を十分に理解できないなど、自力での住居確保が容易ではありません。

そのような事情を持つ特定技能外国人が問題なく日本で新たな生活をスタートできるよう、受け入れ企業は住居の確保に関する支援も行う必要があります。事前ガイダンスでは、企業による支援の存在や具体的にどのようなサポートが受けられるのかを説明しましょう。

社宅の用意がある場合は、社宅の存在に加えて広さや負担金の有無(家賃や食事代など)も説明します。特に負担金についてはトラブルや誤解が生じやすいため、事前に明確な金額を共有することが重要です。ルームシェアの場合も、事前に同居人数など詳しく説明しておきましょう。

送迎サポート

特定技能外国人は、入国時に受け入れ企業が指定する事業所あるいは住居への送迎サービスを受けることができます。受け入れ企業側は送迎サービスがあること、空港で待ち合わせて事業所または住居へ向かうことをあらかじめ伝えておき、入国予定に合わせて送迎を手配する必要があります。

ちなみに、送迎サービスは従業員が社用車を運転して迎えに行かなくてはならない、とは定められていません。特定技能外国人に対する支援は必要に応じて補助者への委託が認められており、送迎の場合はタクシーの利用などが該当します。

相談先

日常生活や社会生活において、困ったことが起こった場合の相談先を知っておくと、早期にトラブルを解決できる可能性が高くなります。特定技能外国人に適切なサポートを行える相談先および苦情を訴えられる窓口についての情報も、事前ガイダンス内で共有すべきポイントです。

担当者の氏名や連絡先、受付時間など相談先全体の態勢を明確化します。SNSなど特定の連絡ツールを使用する場合は、手順も簡潔に伝えましょう。

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事前ガイダンスを実施する方法

事前ガイダンスの実施方法自体も、いくつかのルールがあります。たとえば対面あるいはテレビ電話などで行う必要があり、文書の郵送やメールの送信など一方的に情報を伝える方法のみでは実施したと認められないことなどです。

説明も特定技能外国人が理解できる言語で行い、内容をきちんと理解できているか随時本人へ確認を取りながら進めなくてはなりません。そのためある程度の時間を要することとなり、目安としては3時間前後と考えると良いでしょう。

簡潔にまとめることは重要ですが、1時間程度とあまりにも所要時間が短すぎる場合は、内容自体が不十分と見なされるおそれがあります。同一機関(企業)での契約更新を行う場合は、基本的な内容など一部を省略することは可能ですが、雇用条件や給与の額など詳しい条件面は毎回必ず説明すべきです。

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まとめ

特定技能外国人を受け入れる企業は、義務化されている支援のひとつとして、事前ガイダンスを実施する必要があります。説明する内容も必ず盛り込まなくてはならない項目が複数あるため、担当者は事前に伝えるべき内容を整理しておきましょう。

ただし、説明や支援が義務付けられている内容のみに限定する必要はありません。より支援内容を充実するために、自社独自の説明やアドバイスを加えることもできます。

自社の受け入れ態勢を再確認することにもつながるため、事前ガイダンスの準備は早いうちに始めることをおすすめします。