新在留資格「特定技能」について
新設される「特定技能」とは
2019年4月から改正出入国管理法が施行され、「特定技能」という新しい在留資格が取得できるようになります。
「特定技能」によって大きく変わるのは、建設業界や造船業界、宿泊業界、外食産業など、今まで一部の例外を除いて、海外からの労働者を雇用できなかった業種で、就業が認められるようになることです。
受け入れが可能となる業種は、「法務省令」という大臣が制定する法務省の命令によって規定されます。対象となる業種は、国内では人材確保が難しく、外国人材の採用が必要とされる産業分野です。
受け入れる対象者についても、以下の通り、定められています。
・相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格「特定技能1号」と,同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格「特定技能2号」を新設する
・ある程度日常会話ができ,生活に支障がない程度の日本語能力を有することが基本
(引用:法務省・新たな外国人材の受入れに関する在留資格「特定技能」の創設について)
「特定技能2号」へは、「特定技能1号」の修了者が、試験をパスすると進むことが可能です。それぞれの違いを明確にしておきます。
「特定技能1号」の最長滞在年数は5年と定められており、「特定技能2号」では永住も可能です。現時点で「特定技能2号」のハードルは高くて、具体的な議論が深まっていない状況です。
「特定技能1号」は、期限が限られていることもあり、即戦力となる受け皿として理解して構わないでしょう。
どちらの資格においても共通しているのは、企業と就業者が直接的に雇用契約を結ぶこと、そして転職も可能であることです。
「特定技能」が創設された背景
「特定技能」が新たに設けられた背景を説明します。
結論から言えば、問題の根源は、深刻な人材不足です。
経済産業省の調査では、94%の企業が人材確保に課題があることを明かしています。30%強の企業においては、ビジネスにも影響が出ています。
(参照:厚生労働省・一般職業紹介状況)
回復の兆しを見つつある日本経済。しかし国内産業の90%を占める中小零細企業は、業績が伸びる一方で、欠員状態に陥るという問題を抱えています。
世間的には、ニュースなどで売り手市場だと言われています。平成30年12月の時点で、有効求人倍率は1.63倍を記録したことを厚生労働省が報じました。バブル期を超える高水準となっています。
(参照:厚生労働省・一般職業紹介状況)
求職者によっては引く手あまたですが、企業では労働力が十分ではないため、事業の継続さえ見通しが立っていないところもあります。
売上を拡大させるための、十分な生産力を保てません。既存の従業員における業務量や残業が増えることで、職場環境の悪化や定着率の低下を招いています。
労働問題における負のスパイラルを解消するために注目されたのが、海外の労働力です。今まで外国人を受け入れるために「技能実習」という在留資格が活かされてきました。
しかし「技能実習」には、国際協力の推進という目的があります。日本企業での就業は、あくまでも技術や知識を、国際貢献のために習得・活用することがゴールです。
技能実習法でも「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。」と規定されています。
(引用:電子政府の総合窓口・外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)
「技能実習」では雇用できない人材を、新たに受け入れるべく「特定技能」が創設されることになりました。
一定レベルの専門性・技能を有し、かつ即戦力となる外国人労働者を受け入れる新たな在留資格によって、今まで携われなかった業種や単純労働に就くことが可能になったのです。
知っておくべき「特定技能」の基礎
「特定技能」1号と2号の違い
「特定技能1号」と「特定技能2号」によって解禁される業種は異なります。
「特定技能1号」は14業種が対象です。「特定技能2号」では2業種が対象となります。
・介護
・ビルクリーニング
・建設業
・造船・舶用工業
・自動車整備業
・航空業
・宿泊業
・農業
・漁業
・飲食料品製造業
・外食業
・素形材産業
・産業機械製造業
・電気電子情報関連産業
技能が熟練した外国人を対象とした「特定技能2号」では、建設業と造船・舶用工業において解禁されます。
「特定技能」の受け入れについて
「特定技能」の受け入れについて、特徴を述べておきましょう。
「技能実習」制度では、実習先企業の変更は認められていません。一方で「特定技能」は同一の業務区分内に限って、転職をすることが可能です。
「特定技能」の受入れ機関は、契約にあたって、報酬は日本人と同等以上の水準であることが必要とされます。さらに外国人就業者は、フルタイムでの直接雇用が原則です。農業と漁業以外の業種では、派遣形態は認められません。
「特定技能」のこれから
各業界の受け入れ人数
2019年から10年間で、少なくとも26万から最大で35万6,500人の受け入れを見込んでいます。
今後5年間、見通しとなる人数を確認しておきましょう。
(1)建設業:4万人
(2)造船・舶用工業:1.3万人
(3)自動車整備業:7千人
(4)航空業:2.2千人
(5)宿泊業:2.2万人
(6)介護:6万人
(7)ビルクリーニング:3.7万人
(8)農業:3.65万人
(9)漁業:9千人
(10)飲食料品製造業:3.4万人
(11)外食業:5.3万人
(12)素形材産業:2.1万人
(13)産業機械製造業:5.25千人
(14)電気電子情報関連産業:4.7千人
どの業種においても、目標人数を実現したところで、人材不足を解決できる人数には到達しません。外国人人材の獲得に向けて、他者との競争が激化していくと考えられています。
「特定技能」で日本はどうなるのか
「特定技能」が始動して、日本の労働問題は、今後どうなっていくのでしょうか。
海外の労働者を採用する門戸が広がったとしても、外国人が仕事に定着するのかは別の問題です。
採用活動だけに力を入れるのではなく、仕事をしやすい環境づくりに徹していくべきでしょう。
例えば教育や医療、保険などの公共サービス、労働・雇用を規定する制度など、外国人施策の具体化を図ることが必要です。
企業だけではなく、管理庁や地域社会と一体になって、権能や体制を強化・整備することが、早急に求められます。外国人にとって継続的に働きやすい環境づくりをしなければ、新しい在留資格をつくっても、人材は集まりません。
「特定技能」を上手く活かすことによって、悪循環に陥った企業から脱却することができるでしょう。
まとめ
「特定技能」について、創設される背景から、基本的な概要や特徴について紹介してきました。外国人材を受け入れるために、今後の見通しについても解説しました。
短絡的な発想で、海外の人材獲得に注力をするのではなく、「特定技能」によって国内外の労働者が働きたい職場づくりを整えていく覚悟で臨むべきでしょう。