個人事業主は外国人を雇用できる?その手順を解説

近年の日本は働き方やライフスタイルが多様化しており、誰もが容易に開業できる社会となっています。すでに個人事業主として活躍している方の中には、業績が好調で人手不足に悩んでいる方も少なくないでしょう。 外国語を使用できる人材を求めていたり、求人に日本人の応募者が少なかったりするときなど、個人事業主でも外国人の採用を検討することがあります。 ここでは外国人労働者を雇用したいと考えている方へ、採用する場合の注意点や必要な手続きについて紹介します。

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個人事業主でも外国人雇用は可能

個人事業主でも、法人と同様に外国人労働者を雇用すること自体は可能です。翻訳業務や外国の現地企業との交渉など、事業のグローバル展開のために外国人雇用を検討する個人事業主は珍しくありません。

個人事業主が雇用する場合であっても、外国人の就労ビザを取得する必要がある点には注意しましょう。就労ビザとは外国人が日本に一定期間滞在するために必要となる在留資格のうちの一種で、主に就労を目的とする場合に申請するものです。

就労ビザと一口に言っても、業務内容や職種によって種類が異なります。技能実習生や特定技能1号・2号、介護や教育など、多岐に渡ります。

外国人の在留資格として、留学や研修、文化活動などを目的とする場合に交付されるものも存在しますが、これらのビザでは雇用することはできません。あくまで申請したビザの目的や日常生活の範囲で活動や在留が認められているため、外国人を雇用する場合は留学ビザなどではなく、就労ビザが必要です。

すでに留学ビザなどを取得している場合は、申請や就労ビザへの変更を行うことで一部業種のアルバイトが許可されたり、就労目的で引き続き在留が許可されたりします。

外国人雇用において、法人と個人事業主で大きく異なる点は、登記簿謄本の提出の有無です。個人事業主が外国人労働者を雇用する場合、登記簿謄本の提出は不要となります。

ただし一部の書類を準備する必要がないからといって、手続きが大幅に簡略化されるわけではありません。登記簿謄本を提出しない代わりに、事業の安定性や継続性を証明する書類が別途必要です。

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外国人の雇用主が個人事業主の場合、審査が通りにくい!その理由と注意点

個人事業主による外国人労働者の雇用は可能ですが、場合によっては難易度が上がることもあります。

雇用主が個人事業主の場合、就労ビザの審査が通りにくくなります。この項目では外国人経営者の場合も含め、個人事業主による外国人雇用の審査が困難となる理由と、申請時の注意点を紹介します。

審査が通りにくい理由

個人事業主は管轄する税務署に開業届を行うことで、誰でも開業することができます。たとえば外国人が個人事業主として開業し、従業員を雇用する場合は、税務署への届出に加えて500万円以上の出資や独立した事業所の確保による経営管理ビザの取得が必要です。

経営者が日本人・外国人のいずれの場合も、法人企業と比べて就労ビザの審査は通りにくくなります。創業にさまざまな手続きを要する法人企業よりも容易に開業できる個人事業主は、実態の証明が困難なためです。

入国管理局では、外国人雇用を行う企業や事業主に対してランクづけが行われています。大まかなランキング内容は、以下のとおりです。(カテゴリー1が最も信頼度の高い企業です)

ランク内容 カテゴリー1 カテゴリー2 カテゴリー3 カテゴリー4
政府

地方自治体

上場企業

未上場の大企業

中堅企業

中小零細企業 その他

(新設企業など)

個人事業主はその他のカテゴリー4に分類され、安定性や継続性に問題はないか厳しく審査されます。さらにビザ取得目的のペーパーカンパニーである可能性なども疑われることがあり、健全性を証明するため、カテゴリー1~3の企業よりも多くの提出書類が求められます。

そのため、経営状態によっては通常必要とされる書類の準備が困難となることもあるでしょう。たとえば従業員がいないときや、赤字の場合などです。

審査に必要な主な書類とその注意点

個人事業主が外国人雇用のために就労ビザを申請するときは、主に以下の必要書類を添える必要があります。

・給与支払事務所等の開設届出書の写し
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の写し
・事業計画書
・取引の実態がわかる契約書や発注書など

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の写しは、「直近3か月分の給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」の写しで代用することもできます。

書類作成に関する注意点は、「実在する事業所であり、新たに外国人雇用を行っても問題なく事業が継続できること」を証明できる内容になるよう意識することです。

たとえば事業計画書は、金融機関に提出するものほどしっかりとした体裁・内容(収益性を重視したもの)である必要はありません。事業所の実在性と安定・継続して外国人労働者を雇用できることが証明できるものであれば十分です。最低限、主な取引先や取扱商品などの事業概要と、開業から1年程度の期間の収支計画や人員計画を盛り込みましょう。

赤字決算の場合でも、外国人雇用に関して給与支払いの面で問題がないことが証明できれば、申請が通る確率は高くなります。よって就労ビザを取得しやすくするためには、確定申告書のみでなく、信ぴょう性のある事業計画書を添えることが重要です。

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個人事業主が外国人をスムーズに雇用するためにできること

前述のとおり、法人企業に比べると個人事業主は外国人雇用のハードルが高くなる傾向です。ただし、必ずしも雇用できなかったり申請が通らなかったりするわけではありません。

少しでも雇用の可能性を上げるためには、申請時の工夫が必要です。個人事業主による外国人雇用をスムーズにする工夫として、次の3つがあげられます。

外国人を雇用したい理由を書類に記載

新規設立した事業や個人事業主の場合、外国人雇用について合理性を伝えることで就労ビザを取得できる可能性が高くなります。

事業計画書を作成するときに、前述した最低限の内容に加えて「何故、外国人雇用でなければならないのか」第三者が納得するような合理的理由を記載しましょう。

・どのような理由・目的による雇用か
・雇用によって業績アップは見込めるのか
・その他、外国人雇用ゆえのメリットはあるのか

ポイントは、外国人労働者のスキルによって期待できる収益性に注目して記載内容を整理することです。たとえばECサイト運営を主な事業とする場合、外国人スタッフを加えることで「国内の外国人による利用率を上げられる」などのメリットが記載できます。

また、外国人雇用を行っても人件費捻出が容易である点を証明することも重要です。業績が好調な場合は、翌年度の売上見込みが今年度の実績を超えることが分かる書類やデータを用意するなど、事業の安定性をアピールしましょう。

専門家への相談を検討

外国人雇用のために、個人事業主であっても複数の書類を提出しなくてはならず、容易ではありません。在留資格の種類に適した学歴や職務経験、業務量や日本人従業員と同等の報酬水準など、提出書類以外にも確認すべきポイントは複数あげられます。

信ぴょう性の高い提出書類の作成や、確認項目の見落とし防止のために、必要に応じて専門家のコンサルタントなどサポートを受けることも重要です。専門家によっては書類の作成自体を依頼できる場合もあるため、積極的に活用しましょう。

Webサイトを作成しておく

個人事業主は提出書類に限らず、さまざまな方法で事業の実在性を証明する必要があります。ペーパーカンパニーの疑惑を払拭するためにも、Webサイトの作成がおすすめです。

近年はSNSや動画投稿サイトでの配信など、インターネットを活用したマーケティングを取り入れているところは少なくありません。企業はもちろん、個人事業主であっても商品やサービスを紹介するためにWebサイトの設置が効果的です。

Webサイトは、事業の実在性を証明することにも役立ちます。就労ビザ審査時に、実在する事業であるかどうかを確認するポイントのひとつでもあります。

住所や責任者名、設立日などの会社概要に加えて、取り扱っている商品やサービス、連絡先を盛り込んだWebサイトを作成して就労ビザ取得時にアピールしましょう。

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まとめ

個人事業主であっても、外国人雇用自体は不可能ではありません。法人企業と一部の提出書類が異なるなど注意点があるため、外国人労働者の受け入れを検討している方は、事前によく調べておきましょう。

とくに重視される点は、事業の実在性と外国人労働者を安定かつ継続して雇用できるかどうかです。提出書類の用意や各手続に不安がある方は、専門家のサポートを取り入れてはいかがでしょうか。